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Espionage

英国の諜報機関としては、MI6とも呼ばれる事がある秘密情報局《Secret Intelligence Service》が有名なところ。
フィクションの中では、007シリーズが有名です。
007シリーズでは、局のTOPはMとされていましたが、実際にはCと呼ばれるそうです。
又、シャーロックホームズの兄、マイクロフトも設立に関与していた風な設定です。
ところで、シャーロックホームズの冒険でマイクロフトを演じたチャールズ・グレイ氏、ダイヤモンドは永遠にでブロフェルド演じてたりします。(二度死ぬでは別の役だけど)
ちなみに今回登場するTOPもMになりますね。黙ってればマイクロフトになれるのになんて言う評価まであったりしますが。

ジョン・ディクスン・カーを読んだ男 (論創海外ミステリ 68)ジョン・ディクスン・カーを読んだ男 (論創海外ミステリ 68)


著者:ウィリアム・ブリテン

販売元:論創社
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「石炭をば早や積みて果てつ、か」
 就航したばかりの欧州航路用大型貨客船新田丸で神戸港を猛暑の中出発し、秋の気配とともに無事ロンドン港に到着した不知火は、出迎えにきてくれた大尉の操るモーリス・エイトの助手席で独りごちた。
 あまり目立たないようにと民間航路を利用する羽目になったのはある程度仕方ない事なのだが、やはり一月以上もかかるのは厳しいものがある。シベリア鉄道を使えば半月ほどなのだが民間人ではほとんど査証《ビザ》が降りないし、欧州までの民間向け航空路線など実際問題として存在しないため、好むと好まざるとにかかわらず利用するしか無いのだ。まあ、英国留学から一時帰国していた子女などという身分偽装《なりすまし》のおかげで一等客室を利用できたのだけはありがたかったが。
 そんなことを思っているウチに、車は市街《シティー》の官公庁《ホワイトホール》街にある一つの建物に到着した。てっきり、一度旅館《ホテル》にでも立ち寄るとばかり思っていたので少々意外だ。取りあえず、下船前に略礼装に着替えておいて良かったと思いながら、襟のところに真新しい階級章を取り付ける。普段は着るなと言われているが、知ったことか。少なくとも、外国の機関を非公式とはいえ訪問するのだ。それに、採用されたばかりなので階級章をつけなければ軍服だと気づかれることもまずは無い。
 そんなことを思いながら大尉に案内《エスコート》されている間に、役所の扉とは思えないような場所に到着した。
「出て行け。儂は忙しいのだ」
 白ペンキで文字が書かれた扉をノックすると同時に、部屋の主の怒声が響き渡った。あまりの勢いに、後ずさりしてしまう不知火を促して、大尉はまったく気にせずに入っていく。
「テレフォースとか称するインチキは、逆に宣伝に利用すると言ったはずだ。
 聞こえなんだのか、儂は……なんだ、マスターズでは無かったのか」
 机(デスク)の前で居眠りをしていた巨漢は、フンと鼻を鳴らした。
「で、いったい何だというのだ」
 大尉は、米国人のように大仰に肩をすくめて見せた。
「では、英国紳士《ゼントルマン》らしくここはご紹介を致しましょう」
 再び鼻を鳴らすと、巨漢は手で制した。そして、射るような目つきで机の前で姿勢良くたつ少女を観察する。見慣れぬ背広型軍服の襟には、真新しい大尉の階級章が光っている。最近採用されたばかりの女性用軍服なのだろう。英国婦人部隊のものよりもドイツの婦人補助部隊制服の影響が見て取れる点が気にくわないが。
「まあいい。で、お嬢さん、あんたはなにもんだ」と、デスクの前にたっていた二人に声をかける。全く、噂通りであり噂以上の御仁だ。
 不知火は、曖昧な笑み《オリエンタルスマイル》を浮かべると封筒を手渡す。辻に持って行くよう渡されたそれは、巨漢の手でびりびりと封が切られた。眼鏡を直しつつ読み上げるに連れ、その顔には意地の悪い笑みが広がっていく。
「つまり、お嬢さんが特務機関の代表としてこちらに来たということで間違いないんだね」
 不知火は、首をゆっくりと縦に振り肯定する。
「なるほど、ならば歓迎に一杯もてなさねばならんな」
 言葉と共に、卿はデスクの上に置かれた足をおろし、大尉に向かって「知ってるだろう」とあごをしゃくった。尤も、二重あごの卿がの場合、しゃくると言うより突き出すという表現が合っているのだが。
「全く、情けない。そうは思わんかね、お嬢さん」
 大尉は、いつもの愚痴が始まったと言った感じで取り合わず、手慣れた調子で『機密書類』と落書きされた金庫からグラスとサイフォン、それにウヰスキーを取り出した。お世辞にも衛生的とはいえないグラスをこのまま女性に渡すのもどうかと判断したのだろう、その足でグラスを洗いに給湯室へと向かった。
「全く、どいつもこいつも儂に一切敬意を払いおらん。ええ」
 そんな大尉を見て、卿はぶつくさと愚痴を始めた。
「二度目の大戦で前と同じ役職だというのは、全く解せん事だ、そうは思わんかね」
 同じ役職もなにも英国における諜報機関で情報局秘密情報部《Secret Intelligence Service》の部長以上の役職なんてありもすまいに。唯一ほぼ同格の組織として情報局保安部《Security Service》があるくらいのものなのだ。確かに、この御仁なら戦時内閣であったとしても十二分に切り盛りできるであろうが、大臣にするには能力以外の部分であまりに危険だ。
「でも、閣下の実力は皆さん高く評価されていらっしゃると思います」
 不知火は、曖昧な笑みを湛えたまま卿に話しかけた。
「ただ、閣下も閣下の部下の方も、皆さん英国紳士でいらっしゃいます」
「ほう、英国紳士だとどうだというのだね」
 卿は、多少興味を引かれたようだ。
「ええ、そうですね。日本人が感情表現が下手なように、米国人は開けっぴろげです。同様に、英国紳士は実に素直です」
 卿は、ぴくりと眉を上げた。英国紳士を素直とは、なんの冗談だ。
「英国紳士は素直かね」
「ええ。実に。
 日本陸軍ではたまに海軍軍人を評して、英国紳士のごとく率直だと表現しますが、真っ直ぐに表現しないことに関しては、実に英国紳士以上に素直な方を存じません」
 ぷっ。突然、吹き出すような音が不知火の隣から聞こえた。
 そして、そこにはあわてて取り繕う大尉の姿があった。
 笑いをかみ殺した大尉は、手に持ったグラスを不知火と卿に渡す。
「全く、英国紳士どもと来たら、あんたの言うとおり素直すぎる連中がそろいもそろっとるよ」
 彼はそういいながら自分のグラスを受け取る。
「本当ならポンチが良かったんだろうが、あいにくなもんだから、ハイボールで勘弁してくれ」
「いえ、かまいませんよ」
 卿はもったいぶった調子で「おほんおほん」と咳払いしてから、一息でグラスを干してしまった。そして、傍らに置かれた黒いパイプを手に取ると、はぁと一息ついた。
「うむ、少し良い気分になってきた。
 さてと、だ。お嬢さん、あんたのとこの上司からおもしろい提案があったよ」
 不知火は一瞬自分が呼ばれたと気づかなかったが、すぐにそのお嬢さんというのが自分であると察し、姿勢を正した。

Shi061101


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コメント

ちょっくら質問、Espionageでは、SISって海軍情報部の再編組織って設定でっか?


|ω・)ノ 誤字報告っす
>>一度旅館《ホテル》にでも立ち寄るとばかり思っていたので少々以外だ。
野良も良く以外を意外と打っちゃったりするんですよねぇ……

投稿: 野良 | 2008年5月31日 (土) 09時55分

誤字指摘、監査無二だ

一応、TOPの方にあわせて、陸軍省の諜報部門となっております。
マイルズ・メッサヴィー卿は、彼の後任(をゐ

投稿: 製本業者 | 2008年5月31日 (土) 19時30分

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