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Espionage

軍服としてまず思いつくのは、勲章をつけた制服と迷彩服では無いでしょうか。
勲章をつけた服は、礼装とか正装とか呼ばれ、主に儀礼用として着用します。
迷彩服とか、OD色やカーキ色の、演習や戦闘時に着用する服を戦闘服と呼びます。
一方、通常勤務用に使用する物を常服と呼ばれています。
帝国陸軍の場合、終戦まで常服兼戦闘服となっていました。
Espionageをお楽しみいただければ幸いです

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「どうぞ掛けたまへ、不知火君」
 海軍式の脇を広げない敬礼をする少女に、辻は女学校の教師のごとく声をかける。同時に、まるで美少年にも見えるその顔が、微妙に引きつった。辻が普通の部下に腰掛けるよう促すことなど普通無い。来客か、希に女性職員に対して促すだけだ。むろん、辻はわかった上でやっている。
 不知火は、あみだにかぶったぶかぶか気味の帽子を脱ぎ、机の前に置かれた来客用の椅子に浅く腰掛けると、辻の方に顔を向けた。
 挑発にのってはダメだ。冷静に、落ち着いて。さもなくば、相手に主導権を握られてしまう。不知火は自分自身に言い聞かせた。
 とにかく、現場任務への復帰を勝ち取るんだ。事務作業なんて事になったら最悪だ。下手すれば、打字手《タイピスト》や交換手にされるかもしれない。海軍の伝統である後方任務軽視を比較的受けていない不知火だが、それは、恐怖以外の何者でもなかった。海軍でも、打字手や交換手は女性の仕事とされているのだ。

 まずは、服装からか。海軍さんでも陸では最近着込まない白服とは、それにしても恐れ入った。しかし、長身と相まって妙に似合っている事実を指摘したら、彼はどう感じるだろう。辻は、諧謔を感じた。
 それにしても、辻は思った。それにしても、報告書を読んでいてもなお驚くべき状態だ。いや、報告書を読んでいたからこそなのか。どちらにしろ、報告書に全く嘘偽りは無かったと言うことだ。信じる、信じないと言うのは、別の問題として、意図的な嘘は記載されていない。何しろ、書かないという嘘すら排除されていたのだから。
 実際今の不知火は、辻の目から見ても美少女以外の何者でなかった。客観的であるべき報告書に記されていた通り、美少女と称して間違いはあるまい。成人男性と比べても長身なのは致し方ないが、欧米であればプラチナブロンドと称されるであろう銀髪で彩られたやや下ぶくれ気味のほほと朱を注した様な柔らかな唇、薄い色のついた眼鏡の奥に見える鋭利な瞳、何よりも二式軍装の上からでもわかる脹らみ。これらすべてが、谷崎潤一郎……いや、むしろ江戸川乱歩が描く軍服美女か美少年かといった妖しさを醸し出していた。
 陸軍では、将校以上の所持する装備も次第に官給に変わってきているが、海軍では、まだまだ自ら賄う部分が大きい。目前の少女も、自ら誂えた服を今の体に合わせて仕立て直したと言うところか。だが戦史編纂質《ココ》は海軍ではない。
 だが、肩にもうけられた階級章を見るとともに、再び冷酷とも称すべき心持ちに変わってしまう。冷静で無ければな。心の中でつぶやくと、左の人差し指で眼鏡の位置を直すとともに、不知火中尉の方を向いて笑みを浮かべて見せる。
「調子はどうだね。もう慣れたかな」


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