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Espionage

ご存じの方も多いかと思いますが、旧海軍では、軍艦にラムネ製造器が搭載されていました。
理由としては・艦内は暑い為、水分の補給が必要・消火用に炭酸ガスがあり簡単に充足可能・ラムネだと王冠が無いため再利用可能・瓶から直のみするのでコップが不要、等々いろいろあるそうですが。
市井でも、ラムネが夏の季語だったり、戦前はゲップ(おくび)の隠語でラムネと言ったりしたそうです。

では、Espionage 第2章、お楽しみいただければ幸いです。

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 ようやく退院なったばかりの不知火由良中尉は、期待と不安とともに酒保の前にもうけられた長椅子《ベンチ》に腰を下ろしラムネに口をつける。一般人も利用するだけあって、酒保と言いつつも実際は普通の売店であるので、通常の酒保よりも品揃えは豊富だ。さすがに艦内の酒保より値段は高いが、それでも市販のラムネが一本十銭するご時世に七銭なのだから文句は言えない。
 炭酸の心地よい刺激が、湿っぽい外の天気を払ってくれるかのようだ。
 ピエトロとの決闘で傷ついた体はもはや治らないだろうが、体調はすでに万全だ。体力の衰えは確かに認めるが、反射神経等はかえって研ぎ澄まされた感じすらする。
 陸海軍が最近それぞれ採用した背広型内勤服《略装》ではなく海軍の二式軍装《白服》を着用している所為だろうか、周囲の視線が感じ取れる。陸軍の施設に海軍軍人は不自然というほどではないが、珍しく感じられるのも確かだ。
 彼は、意図的にそう考えた。
 だが、二式軍装を着込んだのは意味がある。それは、彼なりの決意の表れだ。
 満州での失敗と、その後の闘病生活。
 その辛苦から解放され、現場へ復帰するために通らねばならぬ最大の関門を前に、自らの気を引き締めるためにも、真っ新の六尺とともに身につける必要があった。
 彼の中で第一線に舞い戻るため避けては通れぬ場所である。現場復帰するためには、あの辻中佐《根性悪》と対峙し、第一線への切符《パスポート》を勝ち取らねばならない。
 飲み終えたラムネを横に置くと、懐中時計を取り出した。約束の時間まで、後数分に迫っている。
 ちらちら覗かれる不快な視線をあえて無視し、不知火中尉は飲み終わったラムネの瓶を酒保に戻すとと、決意も新たに決戦の場に臨むのだった。

「不知火中尉が参りました」
 机の前の書類に目を通しているところへ、秘書の金子がノックと同時に扉を開いた。中に辻しかいない時の癖だが、何度注意しても直らないので、来客中にしないだけでもよしとしている。彼を知る者が聞けば、ずいぶん丸くなったと目を丸くするであろう。
 書類から頭を上げると、眼鏡《レンズ》を布でぬぐいながら「では、入るよう伝えてくれ」と金子に声をかける。
 扉から女性職員の増加に伴い採用された軍属用制服に身を包んだ上半身をのぞかせていた金子は、「わかりました」と返事し、扉を閉じた。辻は、そんな金子の姿に苦笑する。有能なのだが、どうにも今風《はすは》なところが見受けられる。
 そして、退院なった不知火中尉の姿を想像し、そして顔をしかめた。にやけた顔など見せられない。全く、部下を甘やかすと為にならない。同志などと言って横並び《悪平等》意識を肯定している昨今だが、上司部下の関係まで緩んできていることを、彼は憂いていた。
 少しの間をおき、再びノックの音。
「入れ」
 辻の返事とともに、ドアがさっと開いた。
「不知火中尉、入ります」
 かわいらしい声とともに現れたのは、純白の二式軍装を身にまとった、一五、六の愛らしい少女だった。


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コメント

蛍:一方お米軍はアイスクリーム製造専用艦を……
瑠:間宮と大和にはアイス製造機が有ったそうですね。
澪:ウマそうだにゃ。
美:間宮の羊羹は絶品だったらしいぞ。
茜:ま、戦意高揚に美味な食事は欠かせぬと言うことだな。
さ:おねえたまのお仕事れすね。
テ:給糧艦が被害担当艦兼ねてるってどういう事にゃん……

|ω・) それはともかく乙でした。
    続き楽しみにしております。
蛍:そうですか、我が家の勝負下着のルーツはココに有ったんですか。

投稿: 野良 | 2008年3月 9日 (日) 22時04分

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